4分

ロシアのナラティブ:NATOは最大の脅威

4min Episode 130

 ポッドキャスト『4分間』の特別ミニシリーズでは、ロシアがいかに言葉を武器として使っているかを明らかにします。「ナラティブ(語り)」に焦点を当て、現実を歪め、社会を分断し、民主主義への信頼を損なう物語の仕組みを解き明かします。各エピソードでは、これらの物語がどのように生まれ、なぜ効果的なのか、どう対抗できるのかを解説。1話約4分、現代の戦いがどのように言葉で行われているかを探ります。 

Support the show

「ロシアのナラティブ」特別シリーズを引き続きお届けします。このシリーズでは、ストーリーがどのように世界の見方を形作るのかを段階的に解き明かしています。今回は、ロシアが長年使い続けている最も効果的なナラティブのひとつ――NATO(北大西洋条約機構)を「最大の脅威」とする物語に焦点を当てます。このナラティブは偶然生まれたものではなく、戦略的に構築され、繰り返され、国内外で継続的に強化されているのです。

ロシアのプロパガンダは長年にわたり、NATOはロシアの国境に迫る侵略的な同盟であり、国家の主権を脅かしていると訴えてきました。この主張は、モンゴルの侵略、ナポレオンの遠征、第二次世界大戦中のドイツ軍の占領といった歴史的記憶に深く根ざしています。こうした歴史的経験は、現在のロシア政府の行動を正当化するために用いられており、「私たちはただ自国を守っているだけだ」という簡潔ながら強力なメッセージが繰り返されています。

このナラティブは、2007年にプーチン大統領がミュンヘン安全保障会議でNATOの拡大を公然と批判したことをきっかけに、特に強まっていきました。それ以降、ロシアのメディアや政府機関は、NATOへの恐怖を煽ることで国民を動員し、自国の政策を正当化するためにこのストーリーを一貫して利用しています。国営メディアはNATOを「侵略者」として描写し、ロシアの主権への重大な脅威であると強調しています。

ロシアの情報操作は、NATOがロシアへの攻撃を計画しているとか、隣国の「ネオナチ政権」を支持しているといった偽情報を拡散しています。これらの物語は、公式メディアやSNSを通じて広く拡散され、欧米への恐怖や憎悪を煽るために利用されています。たとえば、ある新しいロシアの教科書では、ウクライナ戦争がNATOと西側からの侵略に対する正当な防衛であると教え、生徒にこのナラティブを根付かせています。

このストーリーの中核にあるのが「伝統的な価値観の防衛」です。家族、信仰、愛国心といった要素がその中心です。ロシアの公式な言説では、リベラルな民主主義は道徳的相対主義を促進し、家族構造を崩壊させ、社会に混乱をもたらす制度として描かれます。ロシアは「真の文明の守護者」として、自国を西洋の堕落に対する最後の砦と位置づけています。

この物語はロシア国内だけでなく、国外の保守的な層にも訴えかけています。移民、少数派の権利、ジェンダー問題、グローバリズムといったトピックに不満を抱える人々に対し、ロシアのナラティブは「伝統への回帰」「真の秩序」「揺るがない価値観」への簡潔な代替案を提示しているのです。

同時に、ロシアはリベラルな民主主義が自己修正能力を持つ制度であるという信念を否定しようとしています。政治的分断、抗議活動、経済危機、文化的対立といった西側社会の現象を「制度崩壊の証拠」として挙げ、「これが自由のもたらす結末だ」とのメッセージを発信しています。対照的に、ロシアは「真実で永続的な価値を守る国」として自らを誇示しています。

このナラティブは単なるイデオロギーではありません。非常に強力な地政学的戦略のツールでもあります。ロシア政府は、自国民だけでなく、国際社会の一部に対しても自らの行動を正当化するためにこの物語を利用しています。批判や制裁を受けている状況下でも、ロシアは「道徳的権威」としての地位を築こうとしています。

このナラティブが非常に効果的である理由は、それが人間の根源的な感情に訴えかけているからです。混乱への恐れ、安定への欲求、何か大きなものに属したいという願望、そして未知なるものから身を守りたいという本能。ロシアの情報戦略は、まさにこうした感情に的確に働きかけています。

「ロシアのナラティブ」をお聴きいただきありがとうございました。このような物語がどのように生まれ、どのように広まっていくのかにご興味があれば、ぜひ私たちのSNSアカウント(TikTok、Facebook、Instagram、X)もフォローしてください。そこでは、エピソードの抜粋や拡張コンテンツ、皆さまのご質問やコメントをお寄せいただけるスペースもご用意しています。

次回は金曜日に配信予定です。次回は「崩壊する西側社会」という物語が、いかにしてロシアの地政学的戦略を正当化するのに利用されているのか、そしてこの手法が現実世界でどのように機能しているのかを深掘りしていきます。どうぞお楽しみに!