ジョーシスサイバー地経学研究所(JCGR)
ジョーシスサイバー地経学研究所(JCGR)が「サイバー地経学」の視点から発信するポッドキャスト。サイバーセキュリティ、地政学、経済・マーケット、各国事情に精通した専門家をゲストに招いた対談や、JCGRによる独自研究の解説を配信しています。毎月、第2・第4金曜日の朝に配信。
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官民の壁を「溶かす」文脈の力と、一人情シスを救う「広島モデル」の衝撃【前広島県情報戦略担当部長/NECエグゼクティブストラテジスト 桑原義幸さん(前編)】
Use Left/Right to seek, Home/End to jump to start or end. Hold shift to jump forward or backward.
今回のゲストは、民間と行政の境界線を「Beyond Borders」の精神で歩み続けてきた桑原義幸さんです。
桑原さんは、外資系IT企業やコンサルティングファームを経て金融庁など中央省庁や福岡市の情報部門責任者を歴任し、広島県で13年にわたり初代情報戦略担当部長として地方自治体のDXを牽引してきたという、官民をまたいで希有な経歴をお持ちです。技術論だけでは決して突破できない「官民の壁」をいかにして「溶かして」きたのか。そして、地方自治体や中小企業が抱える「一人情シスの孤独」という切実な課題にどう向き合ってきたのか。
前編では、DXの本質を「Dream eXpression(夢の実現)」と定義する桑原さんの哲学と、日本初となる独自の「情報職」採用・育成プログラムを通じた組織変革の軌跡を詳しく伺います。
■□ ハイライト □■
官民の壁は「壊す」のではなく「溶かす」: 民間と行政の間に横たわる前例主義やスピード感のギャップ。桑原さんはこれを技術論で突破しようとするのではなく、「なぜやるのか」「誰のためにやるのか」という「文脈(ストーリー)を紡ぐ」ことで、双方の理解を腹落ちさせ、境界線を溶かしていくプロセスを重視してきました。
DX=「Dream eXpression(夢の実現)」:AIが「それっぽい正解」を瞬時に出す時代だからこそ、人間に求められるのは「良い問いを立てる力(右脳的思考)」です。フェラーリのデザインが「風との対話」から生まれたように、IT投資を単なるコスト削減ではなく、どんな未来を作りたいかという「想像(創造)」に変えていく思考法を提案します。
「皿回し」状態の一人情シスを救う「DXship(デジシップ)」: 数千人規模の基礎自治体でも、提供すべき行政サービスは都市部と同じ。限られた人数で無数のシステムを回す「孤独な皿回し」状態の担当者を救うため、広島県では都道府県として初となる「情報職」という専門職種を新設 。県で一括採用・育成した専門人材を市町へ派遣する「チーム広島」の画期的な仕組みを構築しました。
専門職としての誇りとキャリアパスの設計:3年ごとの人事異動で専門性が蓄積されない行政の課題に対し、4年かけて「情報職」のコンピテンシー定義やキャリアパスを確立 。最終ゴールに「CISO/CIO」だけでなく「民間でも通用する人材」を掲げ、情シス担当者が誇りを持てる土壌を整えた苦労と成果を語ります。
<ゲスト・プロフィール>
桑原 義幸(くわはら・よしゆき)さん
前広島県情報戦略部長(2024年3月退官)。デジタルイクイップメント、KPMG、Arthur Andersen(現PwC)等の米系企業にてIT分野の研究開発や経営コンサルティング業務に従事。 2003年の金融庁入庁を皮切りに会計検査院、原子力規制委員会、福岡市などの情報部門責任者として要職を歴任。 2011年広島県CIOに就任し、退官までの13年間で同県をデジタル先進県へと導いた。現在、NECエグゼクティブストラテジスト、株式会社ArteVisione&Co. 代表取締役、株式会社Trive常務執行役員社長補佐兼CTOなど複数の業務に従事。
■□ 収録後記 □■
桑原さんのお話の中で最も印象的だったのは、DXの「X」を「トランスフォーメーション」という難しい言葉ではなく、「eXpression(表現・実現)」と捉える視点です。とかく技術的なスペックやコストの議論に終始しがちなITの世界に、「どんな夢を叶えたいか」という人間中心の温度感を持ち込むことの大切さを教わりました。
また、地方自治体で孤軍奮闘する担当者の「やっと一人じゃなくなった」という言葉には、組織の壁を超えた連携の真の価値が凝縮されています 。
後半(3月13日公開予定)は、「信頼資本」と「失敗の資産化」というさらに深いテーマに踏み込んでいきます。どうぞお楽しみに。
(JCGR編集部)